童話「赤ちゃんは何をにぎっているの?」【動画と朗読音声つき】
【朗読音声】
「お絵かきしてあそぼう」
私の名前は、あやこ。小学1年生。
今日は仲良しの友達が、お兄ちゃん、お姉ちゃんと約束があって遊べないんだって……。
「私もきょうだいがほしいな……、一人ってつまらない……」
机の上にあったノートに、男の子と女の子の絵をかいて、ぼんやりしていた。そのとき、
「ねえ、いっしょにあそぼう!」と、だれかの声がした。
びっくりして起き上がると、どこかで見たことのある男の子と女の子がいた。
「あなたたち、だあれ?」
「ぼくは、ときおだよ」
「私は、いつこよ」
「あやこちゃん、いっしょにあそぼう!」
びっくりしたけれど、私はすぐに、
「うん!」とうなずいた。
すると、いつこちゃんが、
「とっても楽しいところにつれていってあげる! 目をつむってみて!」
言われるまま、私は目をつむった。
「今までうれしかったことや楽しかったことを、思い出してごらん」
私は、友達といっしょに公園で遊んだときのことを思い出した。
「あやこちゃん、目を開けてみて」
私は、そーっと目を開けてみた。
すると、真っ青な空の中を、私は泳いでいた。
「ひゃあーっ! 私、空を飛んでいるの!?」
下を見たらこわくなった。そのとたん、
ひゅーううう。
落ちてゆく……と思ったら、とちゅうでぴたっと浮いたまま、とまった。見ると、ときおくんと、いつこちゃんが、しっかりと私の両手を持ってくれていた。すると、ときおくんが、
「こわいと思ったら、下に落ちてしまうよ。うれしいこと、楽しいことを思うんだよ」
今度は、大好きだったおじいちゃんとおばあちゃんのことを思い出した。おじいちゃんの庭には、チューリップがたくさん咲いていた。
すると、さっきより上手に飛べる。
「空を飛ぶって、気持ちいいね」
バ ニ ラ 味
そのうち、私たちは、雲の上まで来ていた。初めて触る雲、思ったより弾力があって、トランポリンのような、ふわふわのふとんみたい。私はうれしくなって、いつこちゃんに言った。
「いつか雲の上に来たいと思っていたの!」
すると、いつこちゃんが言った。
「この雲、食べられるのよ」
「えーっ!」
いつこちゃんが、くすっと笑って、
「ほら、バニラ味よ」と言って、私の口に雲を入れた。食べてみると、わた菓子のようで、ソフトクリームのようにとろけて、シャーベットみたいにシャリシャリして……、ほんとうに、バニラの味がする!
すると、ときおくんが、
「この味が食べたいな、と思ったら、そのとおりの味が食べられるんだよ」と教えてくれた。
「わぁーい。大好きないちご味が食べたーい」
雲をちぎって食べると、ほんとうにいちごの味がして、とってもおいしい。
花 畑
「今度は向こうへ行ってみようよ」と、ときおくんが言った。
3人で歩いてゆくと、広いお花畑に着いた。
「わぁー! 虹が咲いているみたい! あっ、おじいちゃんもおばあちゃんもいる。そうか、ここは天国なのね」
「あやこちゃん!」そう言って、おばあちゃんが、私をぎゅっと、だきしめてくれた。
「おじいちゃんは、天国でも庭のお仕事?」
色とりどりに、光り輝くお花畑。そのまぶしい光の中で、おじいちゃんが子供たちに、庭仕事をいろいろ教えているよう。
一人の女の子がたくさんの花に、じょうろで水をやっていた。私は、
「ねえ、この広いお花畑を、あなた一人で育てているの?」
「ううん。たくさんの友達と育てているのよ」
そう言われてあたりを見回すと、たくさんの男の子や女の子が、花に水をやっていた。
「ここの花は、みんな神様のほうを向いているでしょう。花を育てて、神様のことが大好きになる心の種を取り出すのよ」
「たね?」
私は聞き返した。
「そうよ。私たち、雲の上から下をのぞいて、どのお母さんの子供になろうかなって見ているの。そうして、自分で決めたお母さんのところへ、この種を持ってゆくのよ……。私は、あの赤い屋根のおうちの子供になりたいの」
「ぼくは、お父さんとお母さんと2人のお姉ちゃんがいる、あのおうちがいい!」
私は意味がよくわからなくて、おじいちゃんのほうを見ると、おじいちゃんが、
「子供たちはみんな、花を育てて、できた種をにぎりしめて、地上に生まれるんだよ。それは心の種だから、地上に着いたときには見えなくなっているんだ。だけど、消えずに育ってゆく。
そして、水をやる代わりに、上を向いて天のことを思っていると、種が喜んで、ぐんぐん育ってゆく。あやこも心の種を育てて、神様が大好きな、心のやさしい子になるんだよ」
すると、ときおくんが言った、
「ぼくも、いつこちゃんも、みんなと同じように、今、花を育てているんだよ」
みんなと同じように……っていうことは、じゃあ、ときおくんも、いつこちゃんも、生まれる前の赤ちゃんなの?
「えーっ!」
私は驚いて、ひっくりかえってしまった。
「あやこちゃん、そろそろお帰り。おじいちゃんとおばあちゃんは、いつも天国から、あやこちゃんを見守っているからね」と、おばあちゃんが言った。
ふりかえって、懐かしいおうちに続く道が見えたと思ったら、ジェットコースターのように急降下、気がついたら、そこはいつもの勉強部屋だった。どのくらいたったのだろう、夕焼け雲が窓から見えた。
赤 ち ゃ ん の 手
それから1年後、私の家に念願の赤ちゃんが生まれた。なんと、男の子と女の子のふたごだ。くすっ。なんだかこの赤ちゃん、ときおくんと、いつこちゃんに似ている。
「あや、赤ちゃんの手に触ってごらん」と、お父さんが私にささやいた。言われたとおりに赤ちゃんの手に触れると、赤ちゃんが、ぎゅっと私の手を強く握ってくる。
「2人とも、お姉ちゃんってわかるのね」ってお母さんが言う。私はうれしくなって、
「私、いっぱいあそんであげるんだ!」と、はりきって答えた。お父さんが、
「赤ちゃんたちの手、何かをにぎっているみたいだな」とつぶやいた。私は、ふと思い出して言った、
「お父さん、2人とも種をにぎっているのよ」
(おわり)
文・さわだ ゆうこ
絵・ほり はつき
朗読・ちょうこ